今週、リブランドはどれもまず家に帰った
神田の私の机の下、一階の印刷所には古い校正刷りをしまった引き出しがある。数週間おきに、角のやわらかくなった名刺を持った客が来て「前と同じで」と言う。主人は何年も前の校正刷りを探し出し、誰も何ひとつデザインし直さない。今週はずっとその引き出しのことを考えていた。ワイヤーに、とても大きな会社が自分の引き出しを開ける話ばかり並んでいたからだ。
いちばんわかりやすかったのはマクラーレンだ。Creative Boomによれば、このレーシングブランドは、ブルース・マクラーレンの家族のガレージ、オークランドのサービスステーションに着想を得た新しいワードマークでアイデンティティを進化させた。スピードマークは残り、パパイヤも残る。変わるのは文字で、その文字はガレージへ帰っていく。スポーツ界でもっとも精密に設計されたブランドのひとつが、次の言葉を、家族が車を直していた場所に探しに行った。
これは何よりもまず、書体についての決断だ。サービスステーションの文字は、道路から、通りすぎる運転手に、一度だけ読まれるためにある。上品さにかける時間はないから、そのかわりに個性を持つ。銀座にいた5年間、私はクライアントがその個性を書体見本帳から買おうとするのを見てきた。マクラーレンは、それを家族の歴史の中に持っていた。
ロイヤル・ウィニペグ・バレエは、もっと多くの紙を使って似たことをした。Communication Artsで、ブルース・マウ・デザインのローラ・スタインがバレエ団の刷新されたアイデンティティを語っている。バレエ団のアーカイブとウィニペグの大草原の風景に着想を得て、新しいダイナミックなタイポグラフィのシステムがそれを運ぶ。アーカイブと地平線。この組み合わせが好きだ。アーカイブだけだと懐古になりがちで、平らな風景だけだと空白ばかりになりがちだ。二つを合わせると、タイポグラファーには押し返す相手ができる。
次はペルー。The Dielineは、エポックによるインカ・コーラのリフレッシュを伝えている。ペルーでいちばん愛されている黄色いソーダで、タイポグラフィとパターンを更新しつつ、記事の言う「愛されてきたビジュアルの枠」は残した。Creative Bloqは、世界のもうひとつのコーラ戦争が熱くなるなかでの同じリブランドを取り上げ、物議をかもす細部があると予告している。その細部は向こうに任せる。私が何度も戻ってしまうのは、The Dielineの一行目にある言葉だ。このソーダは王座を守っている。そういう立場のブランドは、より自分らしく見えるようにデザインし直し、新しい文字を古い枠の内側に描く。
チューリッヒでは、歴史は土地そのものだった。PAGEによれば、エージェンシーのWecatchが、かつての印刷所の跡地に建つ住宅街区ZOHOのアイデンティティをつくり、そのデザインは印刷と日の出から着想を得ている。動いている印刷機の真上に座って、私はそれを二度読んだ。印刷所が住まいになり、その住まいが印刷機を覚えているマークを持つ。土地に対する優しいふるまいであり、おそらくあの場所が差し出せるいちばん正直なアイデアだ。
バンクーバーは、今週いちばん穏やかな例をくれた。Creative Boomは、Rethinkによる市内でもっとも愛されている社会的企業のホテルのひとつのリブランドを伝えている。わかりにくかった旧名YWCAを捨て、在来の木に根ざしたホテル・ウィロという名前にした。今回デザイナーが手を伸ばした過去は、植物だった。名前は家の近くを探しに行き、そこに育っているものを見つけた。
なぜこれが一度に起きたのか。The Dielineのこの夏のベスト・リデザインの振り返りは、一行でそれをほのめかしている。ジフの30年ぶりの大きなリフレッシュ、そしてコカ・コーラがブランドアイデンティティを静かに直したこと。「静かに直す」は、机の上に貼っておきたい言葉だ。ハンブルクのフェスティバルで、ルーカス・コトレルはPAGEに最強のブランドはロゴを見る前にわかると語り、戦略的な価値としてのオーラについて話した。オーラというのは大きな言葉だが、一階の引き出しはそれを完璧にわかっている。人は、覚えている名刺のために戻ってくる。
日本にも今週の日本版があり、ワイヤーでいちばん陽気だった。AdverTimesによれば、東ハトはキャラメルコーン発売55周年を記念して、9月4日から3日間、原宿でイベントを開き、11万通りのパッケージ体験を用意した。博報堂の杉山ユキ氏がキャラクターへの想いを語っている。55年目の見出しの数字が、11万通りに姿を変えるパッケージだというのがいい。これは日本的な本能をひとつの数字にしたものだと思う。みんなが知っている顔はそのままに、祭りが終わるまでそれで遊ぶ。
車の話がほしければ、Dezeenがデザインディレクターのロビン・ペイジに、発表前にベントレー初の完全電気自動車トルカルについて聞いている。電動の未来とブランドの伝統をどう両立させるか、見出しの言葉でいえば「進歩的なやり方」で。車のことは車の人たちに任せる。ただ、その言葉はこのコラムに出てきたどのスタジオにもよく似合う。
金曜の夕方、一階の主人はまた引き出しを開けていた。作業着の男性が、店のカードを前と同じで刷り直してほしいと言い、三度目で校正刷りが見つかった。薄いお茶のような色に変わった小さな紙に、銀座の誰も選ばなかったであろう太いサンセリフで店の名前が組まれていた。彼はそれを戸口の明かりにかざして、ええ、これです、と言った。
今週のワイヤーから
- McLaren evolves its identity with a wordmark inspired by Bruce McLaren's family garage Creative Boom
- Royal Winnipeg Ballet identity Communication Arts
- Epoch’s Inca Kola Refresh Taps Into the Soda Brand’s Peruvian Pride The Dieline
- Inca Kola rebrands as the world's other cola war heats up Creative Bloq
- Mit Blick in die Zukunft: Wecatch branded ZOHO PAGE online
- From YWCA to Hotel Willo: how Rethink solved one of branding's trickiest problems Creative Boom
- Best Redesigns of Summer 2026 The Dieline
- »Die stärksten Marken erkennt man, bevor man ihr Logo sieht.« PAGE online
- キャラメルコーン55周年で11万通りのパッケージ体験、博報堂・杉山ユキ氏が明かすキャラクターへの想い AdverTimes
- Bentley's first fully electric car embraces heritage in a "progressive way" Dezeen
荒川蓮は足立区の荒川沿いで育ち、銀座のデザイン事務所で5年間ロゴを引いたのち、字を詰めるより字について書くほうが面白いと気づいた。駅の看板、米袋、レシート——東京を一枚の組版として読む。神田の印刷所の二階でHakkenを編集している。