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編集ノート

文字はすでに壁にあった

2026年10月24日Ren Arakawa

フラム・エフ・シーの本拠地、クレイヴン・コテージのコンコースの壁には、ブランド事務所なら絶対に承認しないような文字が残っている。縁が擦れたターンスタイルの番号、何十年も前にグラウンドキーパーが試合日の掲示板にチョークで書いた走り書き、1974年にアウェイサポーター用の看板を塗ってそのまま戻らなかった誰かの不揃いな筆跡。デザインではない。五十年かけてスタジアムが自分自身に書き込んだ跡にすぎない。

フラムの新しいクレスト(紋章)とそれを支える文字体系は、ムードボードから生まれたのではない。デザイン事務所のMusicはF37 Foundryとともに、まずスタジアム自体の壁を見に行った。もともとそこに描かれていた手書きの看板の文字から、シャツにも、プログラムにも、チケットにも使える本物のアルファベットを組み立てた。クレストはもはやライオンの絵ではなく、ある壁の記録になっている。

蓮が信じるリブランドはこの種類だけで、信じられないものにも何度か付き合ってきた。よくあるほうはスライド一枚で届く——「ヘリテージの要素」、建物から何百キロも離れたスタジオで清潔に描かれたタイプフェイス、一度も壁に当ててみたことのない自信で発表日に展開される。ケーススタディの写真には映る。実際の壁、実際のシャツ、実際の雨に当たると、たいてい持たない。

ニュージーランドの銀行は、下に何もないリブランドがどうなるかを思い知った。マスコットは愛されたからではなく空っぽだったから拡散し、自分たちのものではないジョークを説明しようとするブランド担当者の姿があった。教訓は「ネットには気をつけろ」ではない。足場のないクレストは、インターネットがそこにもたれかかろうとしたとき、立つ場所がないということだ。

東京にも、見る場所を知っていればクレイヴン・コテージの壁に相当するものがある。谷中の米屋のシャッターは、同じ看板屋が三十年描き続けていて、一文字ごとに微妙に違う。手はフォントではないから。ブランディング事務所は一度も関わっていない。リフレッシュが必要になったこともない。最初から自分以外の何かを装っていなかったからだ。結局、良いリブランドとは、ロゴより先に壁が知っていたことを、事務所がようやく認めることにすぎない。

新しいフラムのバッジは、シャツに、マフラーに、試合のあとまともに洗われないカップにつく。インクの下には、まだターンスタイルの番号が書かれた壁があって、また誰かに気づかれるのを待っている。

荒川蓮は足立区の荒川沿いで育ち、銀座のデザイン事務所で5年間ロゴを引いたのち、字を詰めるより字について書くほうが面白いと気づいた。駅の看板、米袋、レシート——東京を一枚の組版として読む。神田の印刷所の二階でHakkenを編集している。